学会にいこう

はじめに

 この記事は,kstm Advent Calendar 1日目の記事として書かれました.

 

qiita.com

 

おことわり

 アドベントカレンダー初日の記事だというのに,ポエムを書きます.情報技術系サークルのアドベントカレンダーなんだから,イケてるライブラリの紹介記事だとか,コンテスト参加記だとかなんだかんだを書くべきだという声がなんとなく,どこからか聞こえてきます.しかしですね,kstmに所属している我々は,所属の階層を降れば(より大きな集合に焦点を移せば),大学に所属している学生なんですよね.昨年度までのアドベントカレンダーとして公開された記事の中には,有償ソフトウェアの学生ライセンスはいいぞって記事もあります.つまりは,学生の特権を行使できるのは有償ソフトウェアだけじゃないぞって話をですね,以下ダラダラ続けます.

 また,この記事の目標は,「学会はいいぞと伝える」の一点にあります.ハードルを下げる文言を連ねて布教じみたムーブをしますが,皆様の学会ライフの成功を保証するものではありません.自分の振る舞いに対して,自分で責任を取れる大人になりたいものですね.

 

学会参加を難しく考えていませんか

 学会という言葉は,なかなかどうして知的な響きを持つのでしょうか.とてもシンプルで,漢字自体も小学校2年生くらいまでに習うんですけれども,そういう問題でもなさそうです.学会の持つ,知的で不透明でミステリアスな雰囲気は非常に強力なんですね.もし在学の大学が会場になっている学会が開催されたとして,興味のある分野がテーマで,現地の学生は参加費が無料という条件があってもなかなか立ち寄る学生・院生はいないでしょう *1 .しかし,それってやっぱり学会の全容を知らないというのがマズいんですよね.学会の雰囲気は分野によって大きく左右されるというどうしようもない話もあるのですが,まあ,食わず嫌いはよくないって話でここはひとつ.ドレスコードがあるのかってくらいハチャメチャにお堅い学会もあるらしいですが,「スーツや黒髪が喋るわけじゃねぇしな」ってスタンスの学会もあります.

 さて,この節では,そんなに学会って難しくないんだよって話がメインになります.学会ってざっくり言えば学術的アウトプットの場なんですよね.QiitaやGitHubで制作物を公開して,内容が多くの人に見られて,コメントや PullRequest・Issue などでマサカリを投げられる議論を深める図を良く見かけますが,あれと一緒だと思います *2

学会参加の流れ

 この記事では,学会参加はいいぞってテーマに沿ってお話をするのですが.どうすれば学会に参加できるかが気になりますよね.まず最初に,一番手っ取り早く学会参加者になる方法を示します.

  1. 参加したい学会を見つける.
  2. 学会開催日に,学会開催地に行く.
  3. 受付で当日参加の旨を伝え,学会参加費を支払う.
  4. 参加者の名札,あるいはこれに準ずるものなどを受け取り,身に着ける.
  5. おめでとう!立派な学会参加者だ!!

以上です.論文投稿なんかしなくたって学会には参加できます.要は参加費ってやつですね.こいつを積めば誰だって学会に参加できます.また,早めの参加登録で早割が適用される学会もあります.振り込みなどが必要になりますが,ネット上であらかじめ参加情報なども伝えられるので.受付で参加者番号を伝えるだけパスできます.もっと簡単! 

 このような経路で学会に参加する場合,主な目的は聴講する事になります.聞きたい発表のセッションに潜り込んで,知見を深めるも良し,空き時間を利用して,自分の気になる先生と親睦を深めるも良しです.

聴講は何も喋らなくてもフル出席しなくても咎められない

 まず,セッション中について.極論ですが,黙り込んでいる聴講者を悪く思う発表者,座長,他の聴講者はいません *3 .発表の後には質疑応答の時間が取られることがほとんどですが,高校までの謎講演会のように誰かが質問するまで時間が伸びることはありません.また,セッション参加者の誰からも質問や意見がでない場合は,多く場合座長から質問が飛びます.誰も質問をせず,どんよりと停滞する空気が苦手だという人も安心ですね.

 次にセッション外について.ここで他の参加者たちとお話ができるとより有意義な議論ができる場合もありますが,義務でもないし,座長などから強要されることもありません.ぼっちが苦しいのであれば,早々に次のセッションの場所に移動したり,会場から離れたり自由自在です.学会は基本的に出入り自由 *4 なので,臨機応変に立ち回れます.無理をしてフル参加する必要もありません. 

参加費を払うことで無料で参加できるイベントがたくさん

 学会では,もちろん発表がメインです.ですが,学会は議論の場としての側面があるため,所謂アイスブレイクを兼ねたイベントがセッションの合間やその日の終わりに行われます.懇親会(バンケット)は別途参加費を払う必要がある場合がほとんどなのですが,レセプション,コーヒーブレイク,ランチ,フリーツアーなど学会参加者が無料で参加できるイベントがあります.学会によってばらつきは非常に大きいのですが,コーヒーブレイクでケーキが振舞われたり,有名な観光地へ連れて行ってくれたりします.また,レセプションでは,軽めの食事やお酒を基本的にタダで楽しむことができます.エンジニアの大好物ですね.

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ケーキ付きコーヒーブレイク

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めちゃ碧い海(川平湾)



学生が得られる恩恵は多い

 やっとこさ本題です.とりあえずタイプ別に箇条書きをします.

金銭的利点

  • 学会参加費に学生枠が存在する.
  • バンケットにも学生枠が存在する場合がほとんど.

 かなり具体的な恩恵ですが,学生ライセンス紹介記事でも強い利点として使用料に触れていたので紹介します.一概に論ずるのは難しいのですが,信号処理の分野では,参加費はメンバー参加 *5 の半額程度,バンケット参加は6割程度になっています.高い学会になると,メンバー参加でも6万円程度かかるものもあります.学生枠を積極的に利用してお財布に優しい学会生活をエンジョイしていきましょう.

立場的利点

  • 全体的に学生だからと許される雰囲気がある *6
  •  出身大学,出身研究室から話題が広がる場合が多い.
  • 学生の参加者も多く,適当な話題で談笑できる.

 まず一つ目,良くない表現になってしまったかもしれませんが,学生ってほとんどが若者で学会に不慣れです.なので基本的に暖かく接していただけます.例えば,もしボロい質問をしてしまった時でも,聴講席の後ろの方に座っているエライ先生が訂正してくださることもあります.ココロヅヨイネ.要はたくさん転びながら成長できます.しまったなと思ったら,ごめんなさいをしましょう.社会的活動において自分の非を認め反省したことを示せる非常に有効な手段です *7

 二つ目は,いろんな形で効いてきます.大学を擁する土地のお話で談笑したり,大学に在籍する先生,指導教員に関する普段聞けないお話を聞けてしまったりします.いずれにせよ,他大の先生方と滞りなく会話できますし,外から見た大学,あるいは先生方のことを知る機会になります.また,発表を聴いていると,共著の欄に良く見た名前があることがあります.普段講義やゼミで見かける姿とはまた違う教員の姿が分かります.知見が広がるのは,自分の分野知識データベースだけではないということですね *8  .

 最後に,学会参加者は全員が教授,ということはありません.もちろん教授の先生が発表されることもありますが,学生もバンバン発表します.学生は基本的に学生なので,最初はフォーマルな話題でコンタクトを図って,ゲームの話に持っていくことも可能です.学会参加者は,世代的な意味で縦の広がりが大きな集合になりますが,横のつながりを作ることも可能です.

発表者として参加する場合の利点

  • 学校・研究室から交通費や宿泊費などを負担,援助してもらえる.
  • 自分のやっている研究について,意見をもらえる.
  • 学会発表で,失敗ペナルティはない *9 .

 この記事では,聴講として参加する場合を想定してお話をしてきましたが,学会には,当然のことながら発表者としても参加できます.この場合,発表する研究についての論文を投稿する事になります.研究室に配属された学生や院生が苦しそうにしている主な理由の一つです.また,研究が完了していない場合でも,WIP *10 論文として投稿して研究方針を発表することも可能です *11

 やはり,学会はアウトプットの場です. エンジニア界隈でもアウトプットは大事とめちゃめちゃ言われますよね.学会でのアウトプットはそれなりに大変ですが,アカデミアの性質をより良く知る場にもなります.

 また,学校や研究室の名前を背負って発表に臨む場合,金銭的な援助がいただけるケースがほとんどです.旅行でしか行かないようなところへもタダ同然で行けたりします.論文提出のハードルは高いですが,個人的には,聴講よりもオススメです.

FAQ

 主に研究室配属前の学生を対象にした想定問答集です.

 Q1. 研究室配属前の学生も学会に行っていいの?

 問題はないと思います.むしろ,「興味があって来ました」なんてとても素晴らしいことです.自分の興味に忠実に,遠慮することなく参加していきましょう *12

Q2. 学会に行ってみたいけれども興味のある分野が分からない……

 適当な学会に潜り込んで見ることをオススメします.そういう考えにあるときは,行動してみて,良いか駄目かをさっさと決めた方が良いです.悩んでる時間も無駄にならずオススメです.一回参加した学会にずっと参加しなきゃいけない縛りもありませんしね.不安な場合は,大学の教員にお話しに行きましょう.議題はちょっとそれるのですが,教員の居室のドアをノックしてすぐお話していただけるのは大きな学生の特権の一つです *13

Q3. 発表もないのにセッションに参加するのはやっぱり気が引ける……

 ぜひ質疑応答の時間で質問をしましょう.セッションの終わりに座長が言うセリフを引用します *14

素晴らしい発表をして頂いた皆様.そして質疑応答で有意義な議論を促してくださった質問者の皆様に拍手を送って本セッションを閉じたいと思います.

この座長のセリフを拡大解釈すれば,質問者も発表者と同じくらいの重要度を占めていることがわかります.何度も繰り返しますが,学会はアウトプットの場です.発表者もフィードバックを欲しています.エンジニアが何かしらの創作物を公開するのは,他人のフィードバックが欲しいからですよね.ぜひ質疑応答の時間で質問をしましょう.学会参加の意義がグッと高まります.セッション後により深く議論をすることも可能です.

まとめ

最近は主語や目的語が大きめな話を耳にしがちです.学生の本分は〇〇 *15 だとか,大学に通う意味はないだとかその辺ですね.この手の意見の良くないところは,大学の立ち位置がアカデミアであることを無視して大学を批判しちゃうところなんですよね.学生は大抵10代から20代前半の若者がほとんどなので,アドバイスの方向性は間違っていない(一般的に正解とされる)のですが,せっかく学生の道を選んだのですから,広く若者にウケる方向を向くのではなく,学生にしかできないことをやってみませんかという話をしたかったのでしてみました(老害並意見).これを読んでいる皆さんは,きっと芯が強いので,適当言うなと意を唱えてくれるかもしれませんが,その意見は大切にして欲しいです.今の時期から自分のやりたいことをしっかりと定めて動けている証拠だと思うからです.積極的に自分の持ち味を生かしながら良く考えながら人生 *16 をハックをしていきましょうね(謎上から目線).

 また,情報技術のハックに関する記事は,明日以降の担当の方々が思い思いに表現してくれると思いますので,どうぞ最後まで kstm アドベントカレンダーをお楽しみくださいませ.

裏話

実は12/1現在,学会開催地である石垣島に絶賛滞在中です.みんなも頑張ってリゾート地で開かれるような学会にいこう!!!ひたすらに観光が捗る知見が広がる楽しい学会になるぞ!!! *17

*1:俺は違うぞって人は是非そのまま日本のアカデミアを背負って立つ方針で頑張ってください.応援しています.

*2:親しみを持ってもらえるような表現をしています.

*3:つまらないからと寝るなどは流石に怒られます.気をつけよう.

*4:セッションも例外ではないです.

*5:学会の非会員の場合,参加費はさらに高額である場合がほとんどです.

*6:トップカンファレンスなどではそうならないと思うので注意されたい.

*7:反省したそぶりを見せろという話ではありません

*8:配属されて日が経っている人間なら,普通は研究者としての担当教員の姿を知っているべきだなぁと思いました(過去形)

*9:はずです.あったらごめんなさい.良く自分参加する学会の特性を見極めましょう.

*10:Work In Progress. ここでは研究途中などの意味.

*11:WIP論文を受け付けるかは学会に依ります

*12:これは言語カンファレンスや,コンテストなどにも共通しますね.

*13:ステマチックな文言ですが,これはマジです.

*14:学会,座長によってブレがあります

*15:大抵遊べとか就職に備えろとか言われている気がします.

*16:俗にクソゲーだと言われますね.

*17:ちゃんと学会に参加してきました.